「ウツ」来院者は劇的に改善も、どうする「ウツ社員」量産する企業!?
蒲田よしのクリニックの吉野です。「うつゼロドットコム」のコラムは今回が1回目となりますので、先ずは私の経営するクリニックの現況と今後の課題、とりわけ企業のメンタルヘルスに関わる課題などについて、お話したいと思います。
2011年11月に東京都大田区に「蒲田よしのクリニック」を開業し、昨年11月7日で11年が経ちました。クリニックで今まで問題なく診療活動してこられたのは、患者様を始めとした方々の、ご理解ご協力のおかげと考えております。ここに謹んで御礼を申し上げます。
当クリニックは元々内科ですが、現状では更年期障害、自律神経失調症、うつ、不眠、パニック障害など精神・神経疾患の方々が過半数を占めています。年齢層は20~50代が主体となっており、女性が9割前後と多数を占めています。
20~50代という働く年齢層が多い事が影響してか、たいていの方は会話の端々で「職場や仕事のストレス」を口走ります。例えば「ブラック労働」や「上司のパワハラ」「職場内イジメ」等のグチは以前から定番の話題ですが、最近は「新型コロナ」や「テレワーク」あるいは「ワクチン」のせい、などという訴えも飛び交っています。
もちろん「職場」や「仕事」などに対してストレスを感じるのは管理職や経営層だけではなく、私生活を重視する20~30代の若年者も基本的には同じです。日本人にとっては伝統的に、会社など「働く場」が国民の心理に於ける影響力がたいへん大きくなっています。まさに日本社会は「職場」を軸として動いている、といっても大げさではないのです。
ところで「職場のストレス」などによりうつ症状や不眠、パニック障害などを来たした患者に対して行なう血液検査により、女性の9割前後では鉄欠乏、男女ともに8割前後ではビタミンB群欠乏の存在が判明します。それと亜鉛欠乏、マグネシウム欠乏なども含め、各種栄養素の欠乏およびタンパク質や脂質の代謝障害が合わせて浮き彫りになります。
一般に鉄欠乏やビタミンB 群欠乏など栄養バランスの乱れは、うつ症状や不安感、不眠、パニックなど各種精神症状の悪化要因となり得ます。例えばセロトニンをはじめとする神経伝達物質は、心理的安定や自律神経機能の維持に必要な物質ですが、その生合成プロセスで鉄やビタミンB群などの微量栄養素が不可欠なのです。
さてそのような各種栄養素の欠乏が判明した方々に、鉄やビタミンB群、亜鉛、ビタミンC、アミノ酸など主要な栄養素の補充を行なうと、うつ症状や不眠、不安感、パニックなどの精神症状、さらに怠さや頭痛、動悸などの身体症状が、遅かれ早かれ軽減する事例が少なくありません。
職場や仕事に於ける重圧でメンタル不調となった人のうち、軽減業務や休職、離職などを余儀なくされた事例も多くなっています。そういった場合も各種栄養補充などの取り組みによって、多くの事例で現状復帰や復職に至っています。少数ですが年余におよび休職に次ぐ休職から復帰した事例、それに引きこもりから復帰した事例も含まれています。
増加傾向となっているうつ症状や不眠など精神疾患を克服する事を目指し、経産省や厚労省、政府が指揮をとって「健康経営」などの政策を敷いています。企業が自主的に社員の心と体の健康維持、増進を獲得する事を推奨して、優秀な企業を「健康経営銘柄」に指定し、補助金などのインセンティブを与えています。
特に重点を置いた政策の一つが「働き方改革」です。過労やうつ症状などを招く長時間労働を制御し、社員の心身にわたる健康状態を回復しようとする取り組みであり、とりわけ悪質な企業が処罰されるなどした結果、長時間労働は以前に比較して確実に減少しました。コロナ蔓延を契機にテレワークも普及し、この傾向が明瞭となっています。
一方で「パワハラ対策」も重視されました。上司や管理職などベテラン社員が若手に対し、仕事上の不手際を過剰に叱責する、過大または過小な業務指示をする、人間性をけなす、などの過激行動をするケースが多発し、これが若手社員の心身にわたる不調の原因となりましたが、是正を求める指導やルール作り等の取り組みにより、一時に比べ「パワハラ上司」は目に見えて減りました。
このような施策により「働き方改革」や「パワハラ対策」などは或る意味で「成果」を得ましたが、問題の核心であるうつ症状、パニック障害などの発生件数は減少するどころか、かえって増加しています。特に2020年から始まった一連の「コロナ騒動」やテレワーク普及の影響も加わり、精神疾患による休職や離職、自殺の件数は、総じて増えてきています。